脚本家として何が伝えられるかを考える。        by 三好昭央
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人生の先輩からのアドバイス

「お前の文才をもっと生かすべきだと思うんだけどね」

運ばれてきたタンドリーチキン&メキシカンピラフを頬張りながら彼は言う。

メニューを決めるまで、和風おろしハンバーグとどちらにするか
散々悩んだ結果「最近は和食しか食べてなかったから」
という理由でタンドリーチキン&メキシカンピラフを選んだらしい。

事前に食事を済ませていた僕はドリンクバーを注文し、
セルフで入れてきたコーヒーを啜りながら「はぁ」とだけ答えた。






「せっかく面白いんだから勿体無くね?」

チキンを切らずにフォークに刺して豪快に口まで運ぶ。
口の中にまだチキンが残っている間にライスを掻き込み、
そしてチキンとライスをまだ飲み込まないうちに次のチキンを頬張る。
相変わらず、ご飯を忙しそうに、そして美味しそうに食べる人だ。

こんな場面をよくアメリカ映画で観た事がある、
そんな事を思いながら彼の気持ちいい食べっぷりを見ていた。

僕より何歳も年上の彼は、
有名大学を出て外資系の会社でバリバリ働く営業マン。
未だに結婚をしていないのは
「自分の営業が出来ていないからだ」といつもネタのように言う。

最近ではなかなか会えないが、急に思い出したかのように呼びだされては
僕に人生のダメ出し的確なアドバイスをくれる。
しかし、それが概ね的を得てるだけに、
何を言われても不思議と憎めない先輩だった。

「そうですねぇ・・・」

僕はカップに残ったコーヒーを飲み干した。

「例えばさぁ、便利グッズを発明して大儲けしている主婦がいるだろ?
あれはアイディアを一生懸命に考えて、尚且つ、特許を取って商品化したから
世間からも認められる商品になったんだ」

彼は間違いなく頭は良いはずなのに、
例え話の『例え方』が僕と同じレベルな所にちょっと安心する。

話が長くなりそうだったので、2杯目のコーヒーをお代わりする為に
ドリンクバーへ向かおうと席を立った。
すると彼は慌てて自分のグラスに注がれていた
アイスティーを一気に飲み干し「俺も」と言って渡してきた。

コーヒーとアイスティーを注いで席に戻った頃には、
タンドリーチキン&メキシカンピラフは綺麗に平らげられていた。

「もしもその主婦がせっかくの発明を自己満足の為だけに使っていたら
世には出ないだろ?商品化したから世間の人にも浸透するんじゃん」

彼の言いたい事は分かっていた。
僕に文才があるかどうかは別にして、彼はいつも僕の書く文章を褒めてくれ
「その才能を何かに役立てろ!」と事ある毎に言われていた。
そしてそれは、彼以外の人にも何度となく言われている言葉でもあった。
それだけに少し耳の痛い話でもある。

「エッセイとか小説とかもっと書いたら面白いと思うけどね」

お腹が一杯になった彼はセブンスターに火を付けると、
満足そうにベンチシートにもたれかかり、天井を見上げて大きく煙を吐いた。


エッセイか。
そう言えば、僕は昔、ある雑誌でエッセイの連載が決まっていた事があった。
編集長が僕の文章を気に入ってくれ、連載が始まる月まで決まっていた矢先、
ある事情で編集長が変わる事になり、企画自体も流れてしまった。

悔しくなかったかと言えば嘘になるが、
それもタイミングなんだろうと思う事にしていた。
しかし、もしもその時に連載が始まっていれば、
今でも続いていたかもしれないし、今より何かが変わっていたかもしれない、
という可能性があった事も事実。

自分ではどうする事も出来なかった事情とはいえ、
ひょっとしたら僕は小さなチャンスを逃していたのかもしれない。


「お前が普通の主婦になるか、アイディア主婦になるかは
その辺りに懸かってきていると思うんだよね。
まぁ、何か色々とやってみたらいいと思うよ」


それだけ言うと、彼の話は直ぐに次の話題に摩り替わっていった。

僕は彼が必死に熱弁を揮い話す
『某アイドルのバラエティー番組における適応性について』
というまったく興味のない話を上の空で聞きながら、
頭の片隅では自分の今度の展開について考えていた。


アイディア主婦か・・・。


結局、その後も2時間くらいお店で話をしていた。
帰りは家まで車で送ってもらい「また電話するから」と言われ別れた。

部屋に戻ってからも、しばらくボーっと自分がアイディア主婦になる方法
を考えていると、さっき別れたばかりの先輩からメールが入った。



【やっぱり和風おろしハンバーグにすればよかった】



どこか憎めない人である。
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by cultstar | 2007-02-19 13:41 | 日々笑進
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