新宿を歩いていたら誰かに後ろから声を掛けられた。
振り向いて声の方向を見た時に
すぐに嫌な予感がした。
そしてその予感は的中する・・・
「ホストのスカウトなんですけど~」
・・・またかよ。
20代前半であろうその男は
茶髪金のネックレスをして真っ黒のスーツを着ていた。
分かりやすいくらいに俗っぽい。
ホストのスカウトに会ったのは
この時以来二度目。
僕はそんなにホスト顔なのだろうか?
「興味ありませんかぁ~?」
僕は少しうんざりしながらも、
とりあえずスカウト君に笑顔を返して軽く首を振り歩き出した。
しかしスカウト君は諦めずに話しかけてくる。
「お兄さんは背も高いし稼げると思うんですよね~」
この日はとても寒かった事もあり、
僕はニット帽を被りメガネをかけ、首にはマフラーをグルグル巻きという格好で、
明らかにパッと見ただけで顔の雰囲気が分かるような装いではなかった。
それでもスカウト君が声を掛けてくるという事は、
おそらく『背が高い』という理由だけで
話しかけてきたのではないかと思われる。
背が高い→ホストに向いているかも→興味持つかも→僕の出番かも!
そんな所だろう。
僕はまた笑顔を返して尚も歩く。
スカウト君も尚も付いてくる。
「ホストは儲かりますよ~。どうですかぁ?」
スカウト君、お金儲けが目的ならばとっくに他の仕事を選んでいるよ。
「No.1になりたくないですかぁ~?
僕がスカウトした人は結構いいところまでいくんですよ~」
よく喋るスカウト君だ。
でも今回は相手が悪いよ。
君が声を掛けた男はまったくその気がないんだから。
また笑顔でかわす。
「お仕事なにやってるんですかぁ~?」
僕は歩きながら相手を見ないで答えた。
「自由業です」
この回答がスカウト君の興味をそそったらしく、さらに食いついてきた。
「自由業ってなにやってるんですかぁ?
それってホストより儲かるんですかぁ?」
諦める所かますます言い寄ってくるスカウト君に
いい加減うんざりした僕は、立ち止まって彼の顔を見てゆっくり言った。
「もういいよ」
するとスカウト君は僕の表情を見てもう笑ってない事に気付き
「あぁ、そうですか・・・」と言って来た道をトボトボと帰って行った。
寂しそうなその後姿を見ていると、
少し悪い事をした気もしたが仕方ない。
僕は 『当店のNo.1』 とかになってる場合じゃないんだよ。
なったらなったでそれも凄いけどね。
しかし今回といい、
この時といい
誘われるのはこんなのばっかり。
いつの日か夜の歌舞伎町で
僕の顔写真が飾ってあるお店を見つけたらご注意下さい。
なんちゃって。